一方のμT-Kernelは、2011年にVersion 2.0がリリースされる。先述した通り、もともとμT-Kernelは32ビットをターゲット(具体的にはV850とARM7)としつつ、その後16ビットもターゲットに加えており、旧三菱電機系のM16CやH8Sもサポート対象に加わっている。ところが、Version 2.0ではArmのCortexシリーズの急速な普及に伴い、ターゲットは32ビットのCortex-M3/M4/M7と、他はルネサス エレクトロニクスのRL78/RX v1〜v3と大きく変わってきた。
機能的に言えば、標準化範囲の拡大やサービスプロファイルの導入、割り込み管理機能周りの整理や見直し、省電力な無線通信でIPv6を実現するプロトコルである6LowPANのサポートなどが主な変更点ということになっている。このμT-Kernel 2.0は、その後IEEE 2050-2018としてIEEE(米国電気電子工学会)の標準となった。これに合わせてμT-Kernel 2.0の権利はIEEEに譲渡されている。
そしてトロンフォーラム(T-Engineフォーラムが2015年4月に名称変更)は、このIEEE 2050-2018準拠のRTOSとしてμT-Kernel 3.0をリリースした。このμT-Kernel 3.0は、同2.0準拠ではあるが、IoT(モノのインターネット)エッジ向けに最適化されたバージョンであり、ソースコードの全面見直しが図られることになった。現時点ではこのμT-Kernel 3.0のv3.00.07(2024年4月1日リリース)が最新版とされている。
ちなみに、もともとT-Engineはハードウェアの規格だと説明したが、μT-Kernelに対応する(というとやや語弊があるが)ハードウェアの規格として策定されたのがIoT-Engineであり、IEEE 2050-2018に準拠したμT-Kernelでの動作に向けたものとなっている(図4)。
ここまでがトロン協会やT-Engineフォーラムが提供してきたTRON系OSの大まかな概要ということになるが、これら以外にもμITRONやμT-Kernelをベースとした派生OSも存在する。
先ほども少し触れたが、パーソナルメディアが提供しているPMC T-Kernel以外にもeSOLのeT-Kernel、eForceのμC3/CompactやμC3/Standardなどの、μITRON/μT-Kernelをベースとした商用製品が存在する。
また、μITRONをベースとしたTOPPERS(Toyohashi Open Platform for Embedded Real-time Systems)という派生OS(と言うにはかなり中身が違ってしまっている気もするが、出発点はμITRONである)や、これを商用化したもの(例えばUbiquitous AIのTOPPERS-Proシリーズ)もあるなど、少なくとも国内では現在も広く利用されている。
本連載で取り上げてきたRTOSはいずれも海外のもので、それもあってドキュメントからサポートまで全部外国語(基本英語だが、たまに中国語やロシア語などもあったりした)というのがネックという開発者はいまだに少なくないし、ターゲットとなるデバイスも海外の半導体メーカーのものがメインである。そうした観点で言えば、国内の半導体メーカーのICをターゲットとし、全て日本語で完結するμITRONやμT-KernelというRTOSは、実に貴重な存在ともいえるだろう。
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