VRで自分が飛べるという体験をすると高所恐怖が低減することが明らかに医療技術ニュース

情報通信研究機構は、VRで自分が飛べるという体験をすることで、高所恐怖反応が低減することを発見した。恐怖の低減度は、飛行体験によって「自分は飛行できるので落下しても危険ではない」と感じた程度と相関する。

» 2025年06月03日 15時00分 公開
[MONOist]

 情報通信研究機構は2025年5月14日、VR(仮想現実)によって自分が飛べるという体験をすることで、高所恐怖反応が低減することを明らかにした。恐怖の低減度は、飛行体験によって「自分は飛行できるので落下しても危険ではない」と感じた程度と相関することも分かった。

 実験では、高所恐怖症傾向のある参加者を対象に、VR空間の低空を自由に飛行できる飛行群と、そのVR飛行映像を受動的に視聴するコントロール群に分けて比較した。生理的恐怖反応は発汗量をSCR(皮膚電気抵抗)として計測し、主観的恐怖反応は11段階の恐怖レベルを回答するSFC(主観恐怖スコア)して計測した。

 両群とも、VRの体に慣らした後、地上300mにある板の上を先端まで歩くという高所歩行タスクを実施した。次に飛行群は、地上5m以下の低空を7分間、自身でコントローラーを操作しながら自由に飛行した。コントロール群は、そのVR飛行映像を受動的に視聴した。その後、両群とも2回目の高所歩行タスクを実施した。

キャプション VR実験環境(上)とVR実験課題(下)[クリックで拡大] 出所:情報通信研究機構

 1回目と2回目のタスク後にSCR、SFCを測定したところ、両群とも1回目より2回目のスコアは低下した。しかし、飛行群の方がSCR、SFCともに低下が大きかった。このことから、アバターを操作して自由に飛行するという体験が、高所恐怖反応の減少に寄与することが示唆された。

キャプション 高所歩行タスク時の生理的恐怖反応 出所:情報通信研究機構

 また、生理的恐怖の減少量の回帰分析から、飛行群は2回目の高所歩行タスク時に「自分は飛行できるので落下しても危険ではない」と感じた程度が、SCR減少量に関わることが分かった。

キャプション 事後アンケートのスコアと生理的恐怖の減少量の関係を見た解析結果[クリックで拡大] 出所:情報通信研究機構

 ヒトが恐怖を克服するには、恐怖を引き起こす状況を繰り返し体験することで、「この状況は危険ではない」という記憶を学習する方法が主流だった。今回の成果から、行動ベースの予測により、恐怖反応を低減できる可能性が示された。恐怖症などへの新たなアプローチとして期待される。

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