情報通信研究機構は、VRで自分が飛べるという体験をすることで、高所恐怖反応が低減することを発見した。恐怖の低減度は、飛行体験によって「自分は飛行できるので落下しても危険ではない」と感じた程度と相関する。
情報通信研究機構は2025年5月14日、VR(仮想現実)によって自分が飛べるという体験をすることで、高所恐怖反応が低減することを明らかにした。恐怖の低減度は、飛行体験によって「自分は飛行できるので落下しても危険ではない」と感じた程度と相関することも分かった。
実験では、高所恐怖症傾向のある参加者を対象に、VR空間の低空を自由に飛行できる飛行群と、そのVR飛行映像を受動的に視聴するコントロール群に分けて比較した。生理的恐怖反応は発汗量をSCR(皮膚電気抵抗)として計測し、主観的恐怖反応は11段階の恐怖レベルを回答するSFC(主観恐怖スコア)して計測した。
両群とも、VRの体に慣らした後、地上300mにある板の上を先端まで歩くという高所歩行タスクを実施した。次に飛行群は、地上5m以下の低空を7分間、自身でコントローラーを操作しながら自由に飛行した。コントロール群は、そのVR飛行映像を受動的に視聴した。その後、両群とも2回目の高所歩行タスクを実施した。
1回目と2回目のタスク後にSCR、SFCを測定したところ、両群とも1回目より2回目のスコアは低下した。しかし、飛行群の方がSCR、SFCともに低下が大きかった。このことから、アバターを操作して自由に飛行するという体験が、高所恐怖反応の減少に寄与することが示唆された。
また、生理的恐怖の減少量の回帰分析から、飛行群は2回目の高所歩行タスク時に「自分は飛行できるので落下しても危険ではない」と感じた程度が、SCR減少量に関わることが分かった。
ヒトが恐怖を克服するには、恐怖を引き起こす状況を繰り返し体験することで、「この状況は危険ではない」という記憶を学習する方法が主流だった。今回の成果から、行動ベースの予測により、恐怖反応を低減できる可能性が示された。恐怖症などへの新たなアプローチとして期待される。
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