本連載第111回で取り上げたように、米国の臨床現場における医療データ流通やAI利用を支えてきたデジタルヘルスは、第2次トランプ政権における公的医療保険改革ツールとして再起動した。
本連載第111回で取り上げたように、米国の臨床現場における医療データ流通やAI(人工知能)利用を支えてきたデジタルヘルスは、第2次トランプ政権における公的医療保険改革ツールとして再起動した。
2025年5月13日、米国保健福祉省(HHS)傘下のメディケア・メディケイド・サービスセンター(CMS)は、「米国を再び健康にするためのCMSイノベーション戦略」を発表した(関連情報)。CMSは、高齢者向け医療保険(メディケア)や低所得者向け医療保険(メディケイド)を運営する公的医療保険者/支払者である。
本連載第111回で触れた通り、第1次トランプ政権よりCMSが推進してきた「相互運用性の促進(Promoting Interoperability)」プログラム(関連情報)や、長官補室技術政策担当/国家医療IT調整室(ASTP/ONC)が推進してきた「医療データ、技術、相互運用性:患者エンゲージメント、情報共有、公衆衛生の相互運用性(HTI-2)」規則(関連情報)などを踏まえて、CMS傘下のメディケア・メディケイド・イノベーションセンター(CMSイノベーションセンター)が、人々の健康目標を達成するために主導権を握れる医療システムを構築し、「アメリカを再び健康に」することを目標とする新たな戦略を打ち出したものである。
このCMSイノベーション戦略では、図1に示す通り3つの戦略的柱を設定している。
これらの柱は、「連邦政府の納税者を保護する」という基本的な原則に基づいており、「より健康な生活を構築する」というCMSイノベーションセンターの目標に沿ったものとなっている。
3つの戦略的柱を踏まえて、CMSイノベーション戦略は以下のような構成となっている。
次のステップとしてCMSイノベーションセンターは、予防、個人のエンパワーメント、そして選択と競争を通じて、アメリカの医療システムをより健康な生活を築くものへと変革するモデルを検証することに焦点を当てるとしている。そして、民間セクターの活動と連携しながら、人々が健康目標を達成し、医療提供者が健康成果とケアの費用に直接責任を持つというビジョンを実現するとしている。
この戦略を受けて、 CMSとASTP/ONCは、2025年5月16日、「情報提供依頼(RFI):医療技術エコシステム」を発出し、意見募集を開始した(募集期間:2025年6月16日まで)。
今回のRFIでは、意見募集の対象となる技術について、以下の通り定義している。
日本の医療DX(デジタルトランスフォーメーション)施策をみると、電子カルテシステムが中心に据えられているが(関連情報)、CMSのRFIでは、電子医療記録(EMR)/電子健康記録(EHR)から個人向けデジタルヘルスアプリへと施策の重点がシフトしていることが分かる。
その上でCMSとASTP/ONCは、ステークホルダーごとにRFIの質問項目を設定している。例えば、「患者と介護者」に関して、表1のような質問項目に関する情報提供を求めている。
ここでは、患者や介護者を含むワークフローや使用事例に関連する質問について、全てのステークホルダーから意見を提供してもらうことを目的としている。
表1のPC9で出てくる「Blue Button 2.0」は、本連載第40回で触れた通り、第1次トランプ政権時代のCMSが推進した医療IT推進策の柱であり、それを支える代表的な基盤技術が国際的な医療データ交換の標準規格のFHIRおよびそれに関連するAPIである(関連情報)。
また、PC10で出てくる「信頼された交換フレームワークと共通契約書(TEFCA)」は、本連載第111回で触れた通り、米国21世紀治療法およびHITECH法(経済的および臨床的健全性のための医療情報技術に関する法律)に基づき、個人の保健医療情報を相互交換するためのフレームワークである(関連情報)。
そしてPC11で出てくる「医療情報交換基盤(HIEs)」は、本連載第40回で触れた通り、米国の地域医療連携システムを支える基盤技術である。
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