再起動したトランプ政権の公的医療保険改革とデジタルヘルス海外医療技術トレンド(120)(1/3 ページ)

本連載第111回で取り上げたように、米国の臨床現場における医療データ流通やAI利用を支えてきたデジタルヘルスは、第2次トランプ政権における公的医療保険改革ツールとして再起動した。

» 2025年06月13日 07時00分 公開
[笹原英司MONOist]

 本連載第111回で取り上げたように、米国の臨床現場における医療データ流通やAI(人工知能)利用を支えてきたデジタルヘルスは、第2次トランプ政権における公的医療保険改革ツールとして再起動した。

公的医療保険改革に向けてデジタルヘルスイノベーション戦略を再起動

 2025年5月13日、米国保健福祉省(HHS)傘下のメディケア・メディケイド・サービスセンター(CMS)は、「米国を再び健康にするためのCMSイノベーション戦略」を発表した(関連情報)。CMSは、高齢者向け医療保険(メディケア)や低所得者向け医療保険(メディケイド)を運営する公的医療保険者/支払者である。

 本連載第111回で触れた通り、第1次トランプ政権よりCMSが推進してきた「相互運用性の促進(Promoting Interoperability)」プログラム(関連情報)や、長官補室技術政策担当/国家医療IT調整室(ASTP/ONC)が推進してきた「医療データ、技術、相互運用性:患者エンゲージメント、情報共有、公衆衛生の相互運用性(HTI-2)」規則(関連情報)などを踏まえて、CMS傘下のメディケア・メディケイド・イノベーションセンター(CMSイノベーションセンター)が、人々の健康目標を達成するために主導権を握れる医療システムを構築し、「アメリカを再び健康に」することを目標とする新たな戦略を打ち出したものである。

 このCMSイノベーション戦略では、図1に示す通り3つの戦略的柱を設定している。

図1 図1 米国を再び健康にするためのCMSイノベーション戦略の柱[クリックで拡大] 出所:Centers for Medicare & Medicaid Services「Strategic Direction: CMS Innovation Center 2025 Strategy to Make America Healthy Again」(2025年5月13日)を基にヘルスケアクラウド研究会作成

 これらの柱は、「連邦政府の納税者を保護する」という基本的な原則に基づいており、「より健康な生活を構築する」というCMSイノベーションセンターの目標に沿ったものとなっている。

 3つの戦略的柱を踏まえて、CMSイノベーション戦略は以下のような構成となっている。

  • 全てのモデル設計に予防ケアを組み込む
  • 予防ケアの影響を測定する
  • 人々が健康目標を達成できるよう支援する
  • データアクセスを拡張する
  • 健康と財政的インセンティブを一致させる
  • 選択肢と競争を促進する
  • バリューベースの支払プログラムへの独立医療提供者の参加を増やす
  • ケアにおける選択肢を推進する
  • バリューベースの支払プログラムの管理を改善する
  • 連邦政府の納税者を保護する

 次のステップとしてCMSイノベーションセンターは、予防、個人のエンパワーメント、そして選択と競争を通じて、アメリカの医療システムをより健康な生活を築くものへと変革するモデルを検証することに焦点を当てるとしている。そして、民間セクターの活動と連携しながら、人々が健康目標を達成し、医療提供者が健康成果とケアの費用に直接責任を持つというビジョンを実現するとしている。

デジタルヘルスを活用した公的医療保険改革に向けてRFIを発出

 この戦略を受けて、 CMSとASTP/ONCは、2025年5月16日、「情報提供依頼(RFI):医療技術エコシステム」を発出し、意見募集を開始した(募集期間:2025年6月16日まで)。

 今回のRFIでは、意見募集の対象となる技術について、以下の通り定義している。

  • デジタルツール:Web、モバイルまたはその他のソフトウェアアプリケーションで、センサー、ウェアラブルデバイスまたはその他のハードウェアを活用する可能性のあるもの
  • デジタルヘルス製品:個々の健康ニーズをサポートするデジタルツールとして定義されるもの
  • 健康管理アプリケーション:患者のデータやその他の情報を活用して、患者の健康に関する意思決定をサポートするデジタルツール
  • ケアナビゲーションアプリケーション:患者が医療提供者や補助的なケアサービスを見つけ、選択し、アクセスするのを支援するデジタルツール
  • 個人健康記録アプリ:個人の健康記録や医療提供者の受診データを収集/整理し、閲覧、共有、デジタルヘルス製品での利用を可能にするソフトウェアアプリケーション

 日本の医療DX(デジタルトランスフォーメーション)施策をみると、電子カルテシステムが中心に据えられているが(関連情報)、CMSのRFIでは、電子医療記録(EMR)/電子健康記録(EHR)から個人向けデジタルヘルスアプリへと施策の重点がシフトしていることが分かる。

 その上でCMSとASTP/ONCは、ステークホルダーごとにRFIの質問項目を設定している。例えば、「患者と介護者」に関して、表1のような質問項目に関する情報提供を求めている。

表1 表1 RFIで「患者と介護者」に関して情報提供を求めている質問項目[クリックで拡大] 出所:Federal Register「Request for Information; Health Technology Ecosystem」(2025年5月16日)を基にヘルスケアクラウド研究会作成

 ここでは、患者や介護者を含むワークフローや使用事例に関連する質問について、全てのステークホルダーから意見を提供してもらうことを目的としている。

 表1のPC9で出てくる「Blue Button 2.0」は、本連載第40回で触れた通り、第1次トランプ政権時代のCMSが推進した医療IT推進策の柱であり、それを支える代表的な基盤技術が国際的な医療データ交換の標準規格のFHIRおよびそれに関連するAPIである(関連情報)。

 また、PC10で出てくる「信頼された交換フレームワークと共通契約書(TEFCA)」は、本連載第111回で触れた通り、米国21世紀治療法およびHITECH法(経済的および臨床的健全性のための医療情報技術に関する法律)に基づき、個人の保健医療情報を相互交換するためのフレームワークである(関連情報)。

 そしてPC11で出てくる「医療情報交換基盤(HIEs)」は、本連載第40回で触れた通り、米国の地域医療連携システムを支える基盤技術である。

       1|2|3 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.