AIとの共創がもたらすパラダイムシフト Autodeskの「Project Bernini」が示す未来メカ設計インタビュー(1/3 ページ)

米Autodeskが進める研究開発プロジェクト「Project Bernini」は、単なる形状生成を超え、構造的意味を持つパラメトリック3Dモデルを自動生成することで、設計と製造プロセスにパラダイムシフトをもたらそうとしている。エンジニアとAIの新たな関係性とは何か。キーパーソンに話を聞いた。

» 2025年06月05日 07時00分 公開
[八木沢篤MONOist]

 米Autodesk(以下、オートデスク)は、生成AI(人工知能)を活用した研究開発プロジェクト「Project Bernini」(以下、ベルニーニ)を通じて、“意味のある3Dモデル”の生成と、予測主導型設計への転換、組み立ての自動化を目指している。

 ベルニーニの狙いや成果、そしてエンジニアとAIの関係性について、同社 製造業グローバルマーケット開発&戦略シニアディレクターのDetlev Reicheneder(デトレフ・ライヒネーダー)氏に話を聞いた。

米Autodesk 製造業グローバルマーケット開発&戦略シニアディレクターのデトレフ・ライヒネーダー氏 米Autodesk 製造業グローバルマーケット開発&戦略シニアディレクターのデトレフ・ライヒネーダー氏

AIでエンジニアの“働き方”をパラダイムシフト

――2024年10月に米国サンディエゴで開催した「Autodesk University 2024」(以下、AU2024)で発表されたベルニーニについて、その概要と狙いを教えてください。

ライヒネーダー氏 ベルニーニは、オートデスクのリサーチ部門で進めている生成AI技術に関する研究開発プロジェクトだ。「ChatGPT」に代表される従来の生成AIは、主にテキストデータを基にした大規模言語モデル(LLM:Large Language Model)を用いているが、ベルニーニではアプローチが異なる。われわれは、実際の製品データを学習対象とするアプローチをとっており、これを「大規模製品モデル(LPM:Large Product Model)」と呼んでいる。

 このプロジェクトでは、これまでに約1万件に及ぶ製品モデルをAIに学習させてきた。目指しているのは、テキスト、画像、スケッチ、音声など多様な入力から、再利用でき、パラメトリックに制御可能なエンジニアリングモデルを生成することである。

 従来の生成AIでも、例えばクルマの3Dモデルを作ることはできるが、それはただの“塊”でしかなく、タイヤの直径を変える、車体の長さを調整するといった設計的な変更には対応できない。

 ベルニーニでは、そのような固定的なモデルではなく、構造的意味を備えた、編集可能なパラメトリックモデルを自動生成することを目標としている。

 また、もう1つの重要な目的は、AIの処理を“ブラックボックス”にしないことだ。ユーザーがAIの出力プロセスを理解し、自らの意図で操作/制御できるようにすることが極めて重要だと考えている。

取材時にライヒネーダー氏が紹介した「Project Bernini」の研究開発に関する資料 取材時にライヒネーダー氏が紹介した「Project Bernini」の研究開発内容に関する資料[クリックで拡大] 出所:オートデスク

――オートデスクがAI/生成AI技術に注力している理由を教えてください。

ライヒネーダー氏 われわれが目指しているのは、エンジニアがより良い仕事を、より短時間で実現できるように支援することである。現代社会は変化のスピードが速く、多くの企業がイノベーションのプレッシャーや納期短縮の要求に直面している。加えて、中国をはじめとする新興国との激しいグローバル競争に打ち勝つには、既存の枠組みを超えるスピードと柔軟性が必要とされている。

 だが現実には、多くの国で人材不足が深刻化しており、特にドイツや日本では高齢化の影響で熟練技術者の引退が進んでいる。企業は限られた人材とリソースで、従来以上の生産性を求められている。こうした背景から、エンジニアリング分野では“働き方そのもの”を抜本的に変えるようなパラダイムシフトが必要になっている。

 さらに、世界の人口は今後も増加が続き、製品に求められるニーズはよりスマートかつ高度なものに変わっていく。こうした変化に適応しなければ、成熟市場の国々は競争力を維持できない。われわれは、AIを活用してエンジニアの能力を拡張することで、企業の変革と成長を支援したいと考えている。

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